2026年10月21日

根本治療を希望される方へ
「神経ブロックって、痛みを取るだけですよね?」
診察をしていると、ときどきこう聞かれることがあります。
「できれば痛み止めではなく、根本的に治したいです」
そのお気持ちは、とてもよくわかります。
原因そのものを取り除いて、もう痛くならないようにしたい。
誰でもそう思うでしょう。
ただ、痛みの治療では、「痛みを取ること」と「治すこと」を、いつも別々に考えられるわけではありません。
痛みには、身体を守る役割があります
たとえば、足を捻挫した直後の痛み。
「そこを動かさないで」
「今は休ませて」
と身体が教えてくれている、大切なサインです。
このような痛みは、原因となる傷が治っていけば、通常は少しずつ軽くなっていきます。
ところが、痛みが長く続くと話が少し変わってきます。
痛いから動かさない。
痛くてよく眠れない。
動かさないから筋力が落ちる。
身体が硬くなる。
少し動いただけでも痛くなる。
また動くのが怖くなる。
こうして、最初の原因とは別に、「痛みが痛みを長引かせる循環、悪循環」ができてしまうことがあります。
では、「根本治療」とは何でしょう?
椎間板ヘルニアなら、画像に映っているヘルニアをなくすこと?
脊柱管狭窄症なら、狭くなったところを広げること?
もちろん、原因によっては手術などで病変そのものに介入することが必要です。
一方で、画像上の変化を完全に元通りにしなくても、痛みが改善し、以前の生活に戻れることもあります。
反対に、画像上は治療がうまくいっていても、痛みが残ることもあります。
だから私は、「根本治療=悪いところを取り除くこと」だけではないと考えています。
「痛みを取るだけ」にも意味がある
神経ブロックには、局所麻酔薬などを用いて痛みの伝達を一時的に抑えるものがあります。
確かに、それだけを見れば「一時的に痛みを取っているだけ」に見えるかもしれません。
でも、その時間に、
「久しぶりに歩けた」
「夜、眠れた」
「身体を動かせた」
「痛みを怖がらずに身体を動かせた」
としたら、どうでしょう。
痛みが軽くなった時間を利用して身体を動かし、睡眠をとり、活動量を取り戻していく。
必要に応じてリハビリテーションを組み合わせる。
そうやって痛みの悪循環を断ち切り、身体が回復しやすい環境をつくることも、痛みを治療する大切な目的です。
原因を探すことも、痛みを和らげることも
もちろん、「何でも神経ブロックをすれば治る」ということではありません。
痛みの治療には、薬や神経ブロックなどのペインクリニックで行う治療以外にもさまざまな選択肢があります。
せっかくペインクリニックを受診したのに、「ここではない治療を勧められた」と思われることもあるかもしれません。
でも、餅は餅屋。
身体を動かすことが回復への近道であれば、理学療法を中心に治療したほうがよいこともあります。
手術など、原因そのものへの治療が必要であれば、整形外科など適切な診療科での治療をお勧めします。
そして慢性の痛みでは、痛みに対する不安や「動いたらもっと悪くなるのではないか」という恐怖、睡眠やストレスなど、さまざまな要素が痛みの感じ方や日常生活に影響することがあります。
そのような場合には、認知行動療法をはじめとした心理的なアプローチが役に立つこともあります。
これは決して、「痛みは気持ちの問題」という意味ではありません。
痛みは身体だけ、心だけ、ときれいに分けられるものではないからこそ、必要に応じてそれぞれの専門家の力を借りる。
それもまた、痛みを治療するための大切な選択肢だと考えています。
その一方で、身体が回復するまでの時間を、強い痛みに耐え続ける必要もありません。
原因への治療と、今ある痛みへの治療。
どちらか一方ではなく、その人の病態や時期に合わせて組み合わせていくことが大切です。
「痛みを取るだけ」ではなく、その先へ
特に慢性の痛みでは、「痛みをゼロにすること」だけが治療の目標ではありません。
これは、国際的な痛み治療の考え方でも同じです。
痛みそのものを和らげることはもちろん大切ですが、それと同時に、身体の機能やこころの状態、そして日常生活や社会生活をどれだけ取り戻せるかも、大切な治療の目標とされています。
もちろん、痛みがゼロになれば治療する側としても嬉しいのですが……。
眠れるようになる。
歩けるようになる。
仕事に戻れるようになる。
好きだったことを、もう一度できるようになる。
そうした変化も、大切な治療の成果です。
痛みを和らげることは、そのための大切な手段のひとつ。
痛みを治療して、その先の生活を取り戻す。
私たちは、そんな「治す」をお手伝いしています。